知らないことは調べてみたほうがわくわくできるかもその①

酒を飲むときにどのくらい下調べをするかというのは、十人十色かと存じます。
それは飲みにいく場所という意味でもありますし、口にするそのものという意味でもあります。

私はと言いますと、お気づきかも知れませんが、どちらかというと調べたいタイプでして。これはもう飲みがどうとか云う以前に、そもそも調べるということ自体が好物という話でもあるのですがそれはさておき。

先日バンコクへ行ったときに飲んだという話をこちらに書いたサトーは、タイ渡航前に今回はどんな旅になるかしらと調べていたときに出会ったもので、それはそれはワクワクしながら、その夜を待ったのでした。

シャケの切り身が泳いでいる、と思っている子どもたち、などという笑えない笑い話がありますけれども、では私たちは飲んでいる酒のことをどのくらい知っているのでしょうか。

メスカル、という酒を飲んだことのある方はどのくらいいらっしゃいますか。一般的にはまだまだ知名度の低いお酒でしょうが、こちらをわざわざ読みに来てくださっている、まさしく字の通り酔狂なみなさまにおかれましては、もちろん知ってるよ!というものかもしれません。

わたくしの記憶では、少し前まで日本の酒場のメニューでこのあたりの酒といえば、独立して「テキーラ」と書かれていることが多かったように思います。それがいつの頃からか「メスカル」という文字を見るようになり、さらには両者を「アガベスピリッツ」と括る店が増えてきたように思います。

アガベというのは、テキーラやメスカルの原料になる植物。見た目はアロエのようといいますか、観葉植物好きの方が育ててる多肉植物みたいとも言えますか、分厚い葉っぱが放射状にわさっと生えているあれです。リュウゼツランと呼ばれています。

テキーラもメスカルも、ざっくり言ってしまえば、このアガベを原料につくられるメキシコの蒸留酒です。じゃあテキーラとメスカルって何が違うのよ。

これを真面目に説明し始めると、産地だの使えるアガベの種類だの製法だの法律だのと、途端に酒の資格試験みたいになってしまいますので、気になった方はぜひ各々インターネッツの海へ漕ぎ出していただくとして、ここではざっくりとお話ししてまいりましょう。

テキーラにはテキーラの、メスカルにはメスカルの「こういう場所で、こういう原料や方法を使ってつくったものですよ」という決まりがあります。似た原料からできる親戚みたいな酒ではありますが、現在はそれぞれ別の名前を背負っている酒です。

メスカルのおおざっぱな造り方はこうです。アガベの葉っぱを切って切ってコアのような部分を取り出して、それを加熱して、砕いて、発酵させて、蒸留する。

この加熱の部分、伝統的な製法として地面に掘った穴で焼くものがあります。穴の中で石を熱し、そこへアガベを入れて蒸し焼きのようにする。この工程が、メスカルを飲んだときに感じることのある、あの煙や土を思わせるような香りにもつながっていくようです。

煙たいお酒って歳をとるほど、なんとなく気になっていきますよね、不思議なもんです。お酒を飲み始めたころには、なんじゃこりゃ〜!と思ったような淡い記憶があるわけですが。

さてそんなメスカルには「ペチュガ」と呼ばれるものがあります。スペイン語で胸肉という意味の単語。

なんで酒に胸肉の名前がついているかと言えば、胸肉を使うからなんですね。できあがったメスカルを再蒸留するときに、果物や木の実、香辛料などを使い、とここまではさながらクラフトジンのようにも聞こえるのですが、ジンのコアがジュニパーベリーであることに対して、ペチュガのコアは胸肉というわけです。なんと鶏や七面鳥の胸肉を蒸留器の中に吊るすんだそうで。

煮込むわけではありません。蒸留ですから、下で温められた酒から蒸気が立ち上がって、その蒸気が吊るされた肉のところを通っていく。なんとも衝撃的な製造法です。しかもこれがどうやら、どこか一軒の変わった蒸留所が「うちは鶏でも吊るしてみっか!」と始めた奇酒というわけではなくて、ジャンルとして成立しているらしい。

メキシコのメスカルの決まりごとを読んでみると、蒸留するときに別の材料を使って香味を加えるものがちゃんと分類されていて、その例として鶏や七面鳥の胸肉、さらには兎なんてものまで書いてあります。さらに実際のつくり手を調べていくと、鹿やイグアナを使ったものまであるそうです。だんだん飲みたくなってきましたね。

なぜ肉を吊るすのか。いつ誰が始めたのか、複数の説があり、実際のところよくわからないようです。「脂やタンパク質が蒸気と相互作用して口当たりを丸くする」だとか、「香味やボディを与える」だとか、「蒸留の挙動を変える」などの文章をみましたが、伝統的説明と科学的説明も混ざっているという状態のようです。

とまあざっくり調べただけで、あんまりきちんと裏をとっているわけでもないですが、どうですか、わくわくする話ではないですか。間違っているところがあったら、というか普通にありそうなんですが、こっそり教えてください。

知識がなくても酒は飲める。知らずに飲んだって、うまいものはうまい。でも、知ってから飲む一杯には、ときどきそれまで見えていなかった景色が浮かんできたりこなかったりするでしょう。それもまた、良い酔いのひとつなのではないでしょうか。

さて今週のヨヨイノヨイは。

えっメスカルって蒸留器に丸鶏つるしてんの?なんで?となったきっかけの一本です。

ポルフィディオ。中にガラスのサボテンが生えている特徴的な瓶、みたことある方もいらっしゃるでしょうか。

かつては「テキーラ」としてつくられていたボトルもあるのですが、わたくしが飲んだこちら、改めて写真を見返してみればラベルのどこにもTEQUILAとは書いていません。100% BLUE AGAVE。JALISCO。そして「SUPER-JALISCO」。

なんだよ、スーパーハリスコって!かっこよ。

それではまた来週!

この記事を書いた人

逸見愚栄(へんみ ぐえい)