ビールが好きだ。
いつから好きかは、覚えていない。
子供の頃、父は毎日夕飯時にビールを飲んでいた。私が瓶の王冠を栓抜きで開け、匂いを嗅ぎ、「くっさ〜!」と言いながら、宝物のように集めていた。
当時は、なぜ父が毎日ビールを飲んでいるのか不思議でしょうがなかった。
ワインも日本酒も好きだけれど、毎日飲みたいと思うわけではない。食事をしていて、「これにワインを合わせたいな」とか「日本酒飲みたいな」と思うことが多い。
でも、ビールは違う。
ビールだけは「ビール飲みたい!」という気持ちが、割とよくある。というか、めっちゃある。
ただビールが飲みたいと思う。なぜなんだろう。
仕事帰り、近所のスーパーへ寄る。酒類コーナーへ着くとビールを物色する。
よく飲むものを手に取ったり、新発売を何種か飲み比べと称してカゴに入れたり、6本箱買いの方が安いよな!と言い聞かせ、大事に持ち帰る日もある。
家へ帰る。風呂に入る。風呂から出る。目の前に冷蔵庫がある。冷蔵庫を開けると、ビールがある。
「あ、飲もう」
ビールを飲むために何かをする、というより、そこにビールがあるから飲む。
お気に入りの薄張りのグラスに注ぎ、一口流し込んで「はぁ〜〜〜」と息を吐くと、一日が終わった、と思う。
冷蔵庫を開けたときにビールがなかったら、すこしさみしい。わざわざ買いに行くほどではない日もあるけれど、冷蔵庫に一本もないというのは、なんとなく心細い。逆に、何本か入っていると安心する。
別に今日全部飲むわけではない。でも、あるとうれしい。
休みの日は、空が明るいうちからビールを飲むと心が晴れやかになる。
昼からビールを飲んでいると、「今日はもう何もしなくていい」という気持ちになる。いや、別に何もしなくていい日なのだが、ビールを飲むことで、何もしないことに許可が出る感じがする。
旅行先ならなおさらだ。「せっかく来たんだから昼から飲んじゃおう」と言える。せっかく来たんだから、の使い方として正しいのかは分からない。
この酒場はキンキンのジョッキで出してくれるから、絶対に生ビール。老舗の酒場では、友人と注ぎあいたいし、乾杯をたくさんしたいから瓶ビール。
そんなふうに、飲む場所によって選ぶビールも変わる。私はどうやら、時間帯や場所まで含めてビールが好きらしい。
子供の頃は、父が毎日ビールを飲んでいるのが不思議だった。
今なら、なんとなく分かる気がする。
私は今日も、ビールを飲む。
