歴史をシュワっと感じながら飲む地元の酒

タイといえば、ビールですか。そうですね、わかります。シンハー、チャーン、レオ!東南アジアのゴクゴクビールです。

これは余談ですけれども、ベトナムにいったときはグラスにギチギチに氷を詰め込んで、そこにビアハノイを並々に注いで、なんてのをよく見た気がしますが、今回のバンコクでは氷入りのビールには出会えませんでした。わたくしはあれが結構好きでしてね、すこし残念でした。

しかしまあ、東南アジアは暑いから、あーいうビールの飲み方が最高でやんすよ!なんて言いたいところのはずが、どうも東京の方が暑い。行っても帰っても東京のほうが暑い。実際の数字で言うとほぼ同じなわけですが、東京の街を歩くほうが暑くて参ってしまいます。かといって東京で氷ギチギチのビールを飲みたいかと言われると、それはまたどうも違うような気もしますから不思議なものです。

バンコクは4度目だったのですが、今回は過去3回とは異なる回り方をしました。あるときはポケットにお金をねじ込んでストリートフードめぐり、あるときはトランジットの一泊だけだったものでマッサージに全振り。今回は、あらかじめこんな感じに過ごしたいなあというのをAIくんに相談しつくして、ピンをたてたGoogleマップを片手に、さまざまな店を探訪したのです。

もちろん上述の現地ビールは飲みました。カクテルも、ミードも飲みました。ですが今回一番気になったのは「サトー」という酒です。みなさまご存じでしょうか。

わたくしもまったく知りませんでした。ざっくり言ってしまえば、米からつくられるタイに古くからある醸造酒。特にタイ東北部、イサーンの暮らしと深く結びついてきた酒のようです。この地域はラオスとも連続するもち米文化圏で、日々の食卓だけではなく、収穫や祭り、結婚、人が集まって働くとき、つまり人間と人間の間に酒が必要になる場面にサトーがあったそうで、そうきくと米であることもあいまって日本酒のことがちらつきます。

ですが造り方を紐解くと、すこし違います。もち米を蒸して、ルークペーンと呼ばれる発酵スターターをくわえる。これが伝統的には地域や家によって違うつくり方をしているとのことで。同じ「サトー」という名前でも、けっこう違うものができあがるんだそうです。ホームブリューが違法な国に住む我々にとっては魅力的な響き、自家醸造による酒のダイバーシティとでもいいましょうか。

さて、酒というものは、うまい液体であると同時に、国家から見てもうまい税金の塊でもあるわけでして、タイでも酒は長らく国家による免許と課税の対象になってきました。家庭や村でつくられてきた酒も例外ではなく、やがてその仕組みの外側で自由につくることが難しくなっていきます。

たとえば、昨日まで隣のばあちゃんがつくっていたような酒にも、免許という概念がやってくる。地域で昔からつくられてきた酒なのに、自由につくって自由に飲めるわけではなくなってしまった。設備や生産量などの条件を満たして合法的に商売をしようとすれば、小さなつくり手ほど大変になったり、一方では巨大な酒類企業が成長していったりすることは、世界各地でおこってきたことです。

酒を飲むときにいちいちそんなことを考えていたら、酔えるもんも酔えねえよ!との声もごもっともではありますし、わたくしだってもちろん毎度そんなわけではありませんが、酒瓶の中には、税金があり、法律があり、政治があり、産業があり、都市と地方の関係まで入っていたりもします。

2000年代になると、タイでは地域産品を育てようという政策の流れができ、地域の酒にも再び商品として表へ出てくる道が開かれていきます。いわゆるOTOP、つまりOne Tambon One Product、一村一品運動です。余談ですがこの一村一品というのは、日本の大分県の施策を参考にしたんだとか。

とにもかくにも、こうした規制緩和や地域振興の流れのなかで、サトーにも合法的な「商品」として世に出ていく道が広がります。しかし昔ながらの村の酒がそのまま現代まで細々と残りました、という話では決してなく、瓶詰めされ、コンビニやスーパーで買えるような商業的なサトーが登場していったのです。

そこに昨今、異なる流れが。今回わたくしがバンコクで出会ったサトーのひとつに、Devanomというつくり手のものがありました。いわゆるクラフトビールのマイクロブルワリーで、自分たちの手によりホップを育ててクラフトビールをつくったりしてきた人たちです。その彼らが、いま改めて自分たちの国に昔からある米の酒を、“Tradition Reimagined with Modern Craft” と位置づけて造っているのです。

クラフトビールの醸造家が、地元の酒を原料や微生物や発酵を分解して考え、もう一度組み立て直す。クラフトビールと米の酒?!ぷくぷく醸造の立川さんの顔がぷくぷくと浮かんできましたが、ここからその話をするには紙面が足りなさすぎる!これはまたいつの日かにまわしましょう。

さて今週のヨヨイノヨイは。

そんなDevanomの、その名もCRAFT SATOです。低アルコール、うすにごり、シュワッ!
そして片手でグイッと飲める小瓶なのもたのしい。

だれか輸入してたりしませんかね?そのあたりはまだ調べておりません。
バンコクで出会ったタイを感じる夏の酒でありました。

それではまた来週!

この記事を書いた人

逸見愚栄(へんみ ぐえい)