冷たいお酒に少し疲れたら——夏の二杯目は、お湯割りでいい

夏の夜、飲食店に入ったら、最初に頼みたくなるのは、やっぱり生ビールやハイボール、レモンサワーといった、キンキンに冷えた一杯です!
外を少し歩いただけで汗がにじむような暑さの中、結露したグラスに手を伸ばし、喉を鳴らして飲む…
あの瞬間は、やっぱり最高です
僕も「夏だけど、最初からお湯割りを飲みましょう!」なんて、野暮なことを言いたいわけではありません。
最初の一杯は、思いきり冷たくていい‼︎
ただ、二杯、三杯と飲み進めるうちに、ふと「冷たいものは、もう十分かな?」と感じる瞬間はないでしょうか…

考えてみたいのは、最初の一杯ではなく、そのあとの選択です。

夏の二杯目に、“温かい”という選択肢

夏の街は暑い‼︎
けれど、店の中に入ると、そこには外とは違う温度があります。
冷房がしっかり効いた店内で、冷たい料理や氷の入ったお酒が続く…
最初は心地よかったはずなのに、いつの間にか肩や手足、おなかの辺りまで冷えたように感じてくる
冷房と外気との温度差や、冷たい飲食物が重なると、冷えを感じやすくなるともいわれています。

特に女性の中には、夏の冷えに悩む人も少なくありません。
もちろん、女性だけの話ではなくて「何か少しだけ、温かいものがほしい…」そんな瞬間は、誰にでもあると思うんです
この夏、僕たちは三軒茶屋で、熊本県人吉市から寿福酒造場さんをお招きし、「真夏に、あえて“温める焼酎”」をテーマに、飲食店スタッフ向けの勉強会を開きました。
一見すると、少し変わったテーマに聞こえるかもしれません。
けれど、始まりは夏の店内にある小さな違和感でした…
料理には温かい選択肢があるのに、夏のお酒は、その多くが氷の入った冷たいものになっている。
だったら、途中の一杯や、夜を締めくくる一杯に、湯気の立つお湯割りという選択肢があってもいいのではないか?
そんな、ごくシンプルな問いかけです。

湯気の向こうに、焼酎の原料が見えてくる

お湯割りと聞くと、「焼酎の香りが強そう」「アルコールがきつそう」「通の人が飲むもの」といった印象を持つ人もいると思います。
僕も、その感覚はよく分かります
けれど、寿福酒造場さんの米焼酎をお湯割りにした瞬間、その印象は変わりました。

湯気の向こうから漂ってきたのは、強いアルコールの香りではありません。
僕には、それが炊きたてのおにぎりのように感じられました。
温かいご飯の甘い香りが、ふわっと広がる。
「焼酎って、こんな香りがするんだ。」
そんな小さな驚きがありました。

焼酎は、原料によって表情が変わります。
例えば芋焼酎なら、お湯割りにすると、甘く蒸したお芋のような香りがふわっと立ち上がるものもあります。
お湯割りは、焼酎をただ温めたり薄めたりする飲み方ではありません。
アルコールの奥に隠れていた、原料が持つやさしい香りや甘さを、そっと引き出してくれる飲み方なのだと思います。
温かい器を両手で包み、湯気を感じながら口に運ぶと、自然とひと口がゆっくりになる。

会話にも、小さな間が生まれます…
それまで前のめりだった夜の速度が、すっと一段落ち着いていく。
僕が「お湯割りで整う」と感じるのは、体に良いからという意味ではなく、夜のペースがゆっくり整っていくからだと思います

「焼酎キュレーター」に選択肢を委ねてみる

「何を頼めばいいか分からない」という人も、銘柄を知っている必要はありません。
「焼酎に詳しくないのですが、初心者でも飲みやすいお湯割りをお願いします」
まずは、それだけで十分です!

店の人に相談すれば、香りの好みや、それまでに飲んだお酒、食べている料理に合わせて、その夜に合う一本を一緒に考えてくれるはずです…
外の暑さ、店内の温度、その人が何杯飲んだのか、今どんな料理を食べ、どんな表情をしているのか…
目の前の人の「その夜の体感」を見ているからこそ、温かい一杯を手渡せる。
僕は、こうして焼酎の魅力を、その人の気分や、その夜の流れに合う一杯へ翻訳してくれる人を「焼酎キュレーター」と呼んでいます。
知識を披露する人ではなく、「今のあなたには、こんな温度が合いそうです」と、選択肢を差し出してくれる人です。
そんな会話が三軒茶屋のあちこちで生まれたら、クラフト焼酎は詳しい人だけのお酒ではなく、もっと気軽に選べる一杯になっていくと思います。
もちろん、お湯割りを冷え対策として無理にすすめたいわけではありません
暑い日はきちんと水を飲み、自分の心地よいペースでお酒を楽しむことが前提です
そのうえで、冷たいお酒が少し続いたら、二杯目や三杯目、あるいは夜を締めくくる一杯に、お湯割りを選んでみる…
冷たい一杯で始まり、温かい一杯でゆっくり着地する。

夏のお湯割りは、暑さに逆らうためのものではありません。
暑い夏の夜を、最後まで気持ちよく過ごすための選択肢です。
「焼酎に詳しくないのですが、初心者でも飲みやすいお湯割りをお願いします!」
この夏、その一言を、二杯目の選択肢に加えてみてはいかがでしょうか?



【三軒酎屋の中の人note】
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女性の1人飲みの参考書?

『口開け酒場でひとり呑み』

倉嶋紀和子(くらしま きわこ)
日本の雑誌編集長、エッセイスト、タレント
大衆酒場文化の第一人者として多方面で活躍
・肩書:『古典酒場』創刊編集長
・称号:酒サムライ(2022年叙任)
・愛称:酔女(吉田類さん命名の俳号)
・雑誌創刊:2007年に居酒屋特化誌『古典酒場』を創刊
・TV出演:『二軒目どうする?』『にっぽん酒処めぐり』など

この記事を書いた人

中島健壱|三軒酎屋の中の人