最近、改めて思うんです…
お酒の席で、私たちは何を飲んでいるのだろう?と…
もちろん、グラスの中にあるのはお酒です…
けれど本当は、その奥にある時間や、人の手の温もり、土地の記憶のようなものまで、少しずつ受け取っているのかもしれません。
毎年6月の第2日曜日。
鹿児島・天文館には、全国からクラフト焼酎を愛する人たちが集まってきます…
目的は、ただ飲むためではありません!
蔵元さんと、グラスを片手に語るためです…
「蔵元さんと地焼酎を語る会」
通称、コセドの会
3つの店舗、4つの会場で同時に始まり、42の造り手と300人以上の参加者が集まる、なかなか大きな会です!
数字だけ見ると、少し圧倒されますが、実際にその場にいると、本当に面白いのは規模ではないことに気づきます。
面白いのは、そこで交わされる会話の温度です。
「今年の気候は、芋の香りにどう影響しました?」
「三軒茶屋の店だと、ソーダで割るとすごく喜ばれるんですよ」
たわいもない日常の話に花を咲かせる夜も、もちろん愛おしいものです…
でもここでは、香りの違いや、お湯の温度や、ソーダの強さの話が、ごく自然に交わされています。
普通の飲み会なら「最近どう?」で始まりそうなところが、ここでは「今年の芋どうでした?」から始まる。
なかなかです!笑
でも、嫌いじゃない…
むしろ、その少し偏った会話の中にこそ、新しいカルチャーの入口があるような気がします。
本番は日曜日ですが、鹿児島に入った土曜日から、すでに街の空気は少しざわついていました…
昼は蔵を訪ね、夜は天文館の酒場へ向かう…
すると、どこかで見たことのある飲食店の方や、酒屋さん、蔵元さんたちと自然に出会うのです…
誰かに案内されたわけではありません。
それなのに、気づけば同じ店のカウンターでグラスを傾けている。
もしかすると、お酒好きには、地図に載らない「獣道」のようなものがあるのかもしれません…笑
新しい一杯に出会いたい
造り手の話を聞いてみたい
この香りの理由を、ほんの少しだけ知ってみたい
そんな匂いを感性で受け取る人たちが、自然とたどってしまうルート…少し大げさに言えば、愛飲家たちの帰巣本能です。
そして翌日、その獣道の先に広がっていたのが、あの心地いいカオスでした。
この会の魅力は、蔵元さんと参加者の距離の近さにもあります。

造り手が壇上に立って、参加者がありがたく話を聞く…
そういう形式ではありません。
座敷の座卓を囲んで、蔵元さんも、酒屋さんも、飲食店も、ただお酒が好きな人も、文字通り膝を突き合わせて話します。
少し身を乗り出せば、ボトルの向こう側にいる人へ直接、言葉をかけられる。
「この香り、狙って出しているんですか?」
「蔵では、普段どんなふうに飲んでいるんですか?」
そんな会話が、グラス一杯分の距離で行われます。
この近さは、かなり贅沢です。
原材料やアルコール度数といった文字の情報なら、スマートフォンで調べれば分かります。
でも、目の前に造り手がいて、その人の表情や声のトーンごと受け取る言葉は、ただの情報とは少し違います。
そこには、その年の手応えがあり、ちょっとした迷いがあり、言葉にしきれない感覚があります。
ボトルの裏ラベルだけでは届かないものが、人の声になると、すっと心に届く…
座卓を囲む昔ながらの距離感が、クラフト焼酎を「勉強するもの」から、自分の「体験」に変えてくれるのだと思います。
クラフト焼酎は、蔵で造られます…
でも、蔵で完成して終わりではありません。
蔵元さんが造った一本を、酒屋さんが見つけ、酒屋さんが見つけた一本を、飲食店が仕入れ、飲食店は、どんな料理と合わせるか、どんな温度で出すか、どんな言葉を添えるかを考える…

「注ぎ手」の文化を育てる
僕たちが三軒茶屋という街で育てていきたいのも、まさにこの「注ぎ手」の文化です。
そして最後に、飲み手であるあなたが、グラスを持ってひと口飲む。
クラフト焼酎は、四つの手を渡って届くお酒です。
造る手、届ける手、注ぐ手、受け取る手…
この手がつながった時、液体はただの商品ではなく、ひとつのカルチャーになります。
鹿児島は、クラフト焼酎を生む場所
東京は、その焼酎と出会う理由をつくる場所…
たとえば、フルーティーな香りの一本をソーダで割った時、「え、これ本当に焼酎ですか?」と目を丸くする瞬間があります。
いくつかの種類を横に並べた時、その個性の違いに驚く表情があります。
東京のカウンターでは、いつもそんな小さな発見が起きています。鹿児島で生まれた価値を、都市が勝手に変えるのではありません。
蔵元さんが込めた思いを、都会の夜の中でどう開くか。
僕たちは、その「価値翻訳」をしているのだと思います。
僕は、焼酎業界のど真ん中で育った人間ではありません…
大人になってから、この世界の面白さに気づかされてしまった、後追いの人間です。だからこそ、最近改めて思うんです。
この豊かな世界を、詳しい人たちだけのものにしておくのは、あまりにももったいない。
もっと気軽な入口をつくり、もっと偶然出会える余白を、街の中に増やし、ラベルの向こう側にいる人たちの言葉を、温度を落とさず、東京の夜のカウンターまで運びたい…
鹿児島・天文館で見たのは、単なる大宴会ではありませんでした。
一杯のグラスを通して、人の思いや言葉がバトンタッチされていく瞬間でした。
お酒は、グラスの中で終わりません。
人の言葉を通った時、カルチャーになる。
今夜、あなたがどこかの店で、あるいは自宅の部屋で選ぶ一杯にも。
もしかすると、遠くの蔵元さんの気配が、ほんの少しだけ混ざっているかもしれません。

【三軒酎屋の中の人note】
毎週土曜日更新
女性の1人飲みの参考書?
倉嶋紀和子(くらしま きわこ)
日本の雑誌編集長、エッセイスト、タレント
大衆酒場文化の第一人者として多方面で活躍
・肩書:『古典酒場』創刊編集長
・称号:酒サムライ(2022年叙任)
・愛称:酔女(吉田類さん命名の俳号)
・雑誌創刊:2007年に居酒屋特化誌『古典酒場』を創刊
・TV出演:『二軒目どうする?』『にっぽん酒処めぐり』など

