クラフト焼酎は、ネクストメスカルになれるのか?
ローカル蒸留酒が、世界に見つかる瞬間
「クラフト焼酎は、ネクストメスカルになれるのではないか?」
最近、巷ではそんな噂が囁かれてます
もちろん、これは単純に「メスカルが流行ったから、次は焼酎だ!」という話ではありません。
そんなに都合よく、世界は動かない。
でも、メスカルの歩みを見ていると、どうしても思ってしまうのです。
ローカルな蒸留酒が、ある日突然、世界のバーで語られはじめることがある…
昔からその土地にあった酒が、言葉と文脈を与えられた瞬間、まったく違う価値を持ちはじめることがある…
だとしたら、日本のクラフト焼酎にも、まだ見つかっていない未来があるのではないのか?
今回の記事は、そんな仮説です!
もともとメキシコのローカルな蒸留酒
メスカルは、もともとメキシコのローカルな蒸留酒でした。
アガベという植物を原料にし、土地ごとの製法があり、村ごとの味がある…
大量生産で均一化された酒というより、その土地の風土や造り手の癖が、そのまま液体になったような酒です。
それが今では、世界のバーで語られ、カクテルに使われ、プレミアムスピリッツとして扱われています。
実際、アメリカ市場ではテキーラ/メスカルの販売量が2003年以降302%増加し、2024年には3,220万ケースに達しているそうです。
特に高価格帯・スーパープレミアム帯の伸びが大きく、ローカルな蒸留酒が“価値あるクラフトスピリッツ”として再編集されたことが分かります。
ここで面白いのは、メスカルが単なる「珍しい酒」として広がったわけではないことだったりします。
メスカルは、ローカルであることを弱点にしませんでした。
むしろ、ローカルであることを価値に変えてすらいます。
村ごとの違いやアガベの種類、伝統製法、造り手の顔…
そして、なぜこの酒がこの土地で生まれたのかという物語…
それらが、世界の飲み手にとって、知りたい、語りたい、誰かにすすめたい価値になっていった。
Ron Cooperが立ち上げたDel Magueyは、“Single Village Mezcal”という考え方で、村ごとの個性や造り手の背景を前面に出し、メスカルの多様性を世界に伝えた存在として知られています。
つまり、メスカルが世界に見つかった理由は、味だけではなくて、味の奥にある背景が、ちゃんと言葉になり、飲む前にすでに興味が湧く状態が作られ、一杯の中に土地と人と物語が入っていることが伝わった…
ここに、僕はクラフト焼酎の未来を重ねてしまうのです。
クラフト焼酎の可能性
クラフト焼酎にも、土地があります!
芋、麦、米、黒糖、泡盛…
鹿児島、宮崎、熊本、大分、長崎、奄美、沖縄…
同じ芋焼酎でも、蔵によってまるで違い、同じ原料でも、麹が違えば、蒸留が違えば、仕込みの考え方が違えば、表情は変わる…
しかも、日本のクラフト焼酎には「麹」があります!
この存在は、世界の蒸留酒の中でもかなり独特で、JETROも、焼酎は世界ではまだ十分に知られていない一方で、大きな可能性を持つ日本のクラフトスピリッツだと紹介しています…
でも、ここで一つ問題があります。
クラフト焼酎は、まだ十分に“語られていない”
もちろん、蔵元は語っているし、酒販店も語り、熱心な飲食店も語っている…
焼酎が好きな人たちは、その奥深さをよく知っている…
ただ、それがまだ、非・焼酎ファンに届く言葉になりきっていない気がするのです。
「芋焼酎です」
「黒麹です」
「常圧蒸留です」
もちろん、それは間違っていない。
でも、初めて飲む人にとっては、その言葉だけではまだ扉が開かないことがあります。
メスカルが世界に広がった背景には、味だけではなく、翻訳があったのだと思います。
ローカルな価値を、都市の飲み手に届く言葉へ変える。
伝統を、古いものとしてではなく、今の感覚で面白がれるものへ変える。
造り手のこだわりを、専門用語ではなく、飲む理由へ変える。
クラフト焼酎は、弱い酒なのではない。
まだ、現代の飲み手に届く言葉が足りていない酒なのだと思う。
たとえば、芋焼酎。
日本では、どこか「クセが強い酒」「おじさんが飲む酒」という古いイメージを持たれることがあります。
でも、少し視点を変えると、芋焼酎は世界でもかなり珍しい“ベジタブルスピリッツ”という一面もあります。
ウイスキーは穀物
ラムはサトウキビ
メスカルはアガベ
そして芋焼酎は、サツマイモと麹から生まれる…
この事実だけでも、かなり面白い。
さらに、飲み方が自由です。
ストレートだけではなく、ロックだけでもない…
水割り、お湯割り、ソーダ割り…
アルコール度数も、香りの立ち方も、料理との距離感も変えられる。
つまりクラフト焼酎は、ただ個性をぶつける酒ではなく、食事や会話に合わせて表情を変えられる酒です。
ここが、メスカルとの大きな違いだと思います。
メスカルが、バーで語られるスピリッツだとしたら、クラフト焼酎は、食卓で語られるスピリッツになれる!
この可能性は、もっと真剣に考えていい気がしています。
クラフト焼酎は、メスカルの後追いをする必要はないし、スモーキーな個性で勝負する必要もない!
海外のバーで「珍しい日本のスピリッツ」として置かれるだけで終わる必要もない。


クラフト焼酎の勝ち筋とは…
クラフト焼酎には、クラフト焼酎の勝ち筋がある。
それは、食事と一緒に語れること!
土地の物語を持ちながら、飲み方を柔軟に変えられること!
伝統がありながら、まだ現代的に編集されきっていないこと!
言い換えるなら、余白があるって事かな?
そして、カルチャーになる前のものには、いつも余白があります。
メスカルも、最初から世界のプレミアムスピリッツだったわけではありません。
誰かが見つけ、誰かが面白がって、誰かが言葉にしたりして、誰かがバーで出して、誰かが誰かに語った…
その積み重ねで、ローカルな酒がグローバルな酒になっていった。
ならば、クラフト焼酎にも必要なのは、同じような“語りの現場”なのだと思います。
蔵元が造り、酒販店がつなぎ、飲食店が注いで、キュレーターが語り、飲み手が面白がる…
そして街の中で、少しずつ「焼酎って、こんなに自由だったんだ」という体験が増えていく。
三軒酎屋がやろうとしていることも、たぶんここにあります。
三軒茶屋を、ただクラフト焼酎がたくさん飲める街にしたいわけではありません。
「クラフト焼酎を語れる街にしたい。」
一杯の奥にある土地や蔵元の哲学を、東京の飲食現場で、今の言葉に翻訳していく。
焼酎ファンだけではなく、まだ焼酎に出会っていない人にも届く入口を増やしていく。
クラフト焼酎は、ネクストメスカルになれるのか?
その問いへの答えは、まだ分かりません。
でも、少なくとも僕は、こう思っています。
クラフト焼酎は、メスカルの後追いではない。
世界がまだ見つけていない、“食中スピリッツ”の本命かもしれない。
そしてその未来は、いきなり海外のバーから始まるのではなく、案外、東京の小さな飲食店のカウンターから始まるのかもしれません。
誰かが一杯を注ぎながら、こう言う。
「これ、ちょっと面白い焼酎なんですよ」
たぶん、カルチャーの入口はそれくらい小さい。
でも、世界に見つかる酒は、いつもそういう小さな一杯から始まるのだと思います。


【三軒酎屋の中の人note】
毎週土曜日更新
【限定20名】寿福酒造場を囲む会 in 三軒茶屋
球磨焼酎の名門・寿福酒造場を、三軒茶屋でじっくり楽しむ夜。
「米焼酎って、こんなに奥深かったんだ…」
そんなふうに、いつもの一杯の見え方が変わる瞬間があったりします…
それは、ただ飲むだけではなく、その焼酎がどんな土地で生まれ、どんな人の手で造られているのかを知った時だと思います
今回は、熊本県人吉市の球磨焼酎の名門・寿福酒造場の杜氏さんを囲んで、三軒茶屋で飲む会を開催します。
寿福酒造場は、1890年創業。
球磨焼酎の伝統を守りながら、常圧蒸留一筋で焼酎を造り続けてきた蔵です。
代表銘柄の「武者返し」は、米のふくよかな香りと旨味が魅力の一本。
そして、四代目杜氏・寿福絹子氏の名を冠した麦焼酎「寿福絹子」は、香ばしさと厚みがあり、一般的な“軽い麦焼酎”とは少し違う表情を持っています。
でも、焼酎の面白さは、スペックだけでは伝わりません。
なぜ、この土地で造られているのか?
なぜ、常圧蒸留にこだわるのか?
どんな料理と合わせると美味しいのか?
どんな想いで、次の世代へつなごうとしているのか?
蔵の方から直接そんな話を聞きながら飲む一杯は、同じ焼酎でも、少し違って感じられるはずです。
会場は、三軒茶屋の有名店「居酒屋ひでじろう」の2階活気があって、料理もお酒もちゃんと美味い!
気取った会ではなく、美味しい料理を囲みながら、寿福酒造場の焼酎をじっくり楽しむ“良い夜”にしたいと思っています。
焼酎に詳しい人は、より深く。
まだ詳しくない人は、いつもより少し近く。
球磨焼酎の名門・寿福酒造場の魅力を、蔵の方の話と一緒に味わえる貴重な機会です。
限定20名!
気になる方は、お早めにどうぞ。
開催概要
日時
2026年7月14日(火)
19:00スタート(3時間)
会場
居酒屋ひでじろう
三軒茶屋を代表する大衆酒場
「時間制・食べ飲み放題」というユニークなスタイルで、料理・お酒ともにクオリティが高く、活気ある雰囲気の中で蔵人さんとの会話もゆっくり楽しめる空間です。
コース内容
3時間 8000円
飲み放題/食べ放題
※詳細メニューは当日のお楽しみ
アクセス
東急田園都市線・世田谷線
三軒茶屋駅 徒歩4〜5分〒154-0004
東京都世田谷区太子堂4-28-9
☎︎ 080-7201-0291
女性の1人飲みの参考書?
倉嶋紀和子(くらしま きわこ)
日本の雑誌編集長、エッセイスト、タレント
大衆酒場文化の第一人者として多方面で活躍
・肩書:『古典酒場』創刊編集長
・称号:酒サムライ(2022年叙任)
・愛称:酔女(吉田類さん命名の俳号)
・雑誌創刊:2007年に居酒屋特化誌『古典酒場』を創刊
・TV出演:『二軒目どうする?』『にっぽん酒処めぐり』など

