久しぶりに行く店はうれしいけど、頻繁にいくともっとたのしいかもしれませんよ

ママ、そこのお客さんが瓶ビールって言ってたよ!とカウンターに座る男性が伝えてくださった店がありました。先の注文のときに、食べ物を先に言ってしまったせいか、最後に言った瓶ビールという一言が宙に浮いてしまったのです。通ったか通ってないかわからない、というよりは、おそらく通っていないだろう、という確信はありつつも、急ぐビールでもありませんから、次にママさんがこちらに気を向けたタイミングにでも言おうかな、と思っていたら、常連さんと思しきかの男性がママさんに声をかけてくれたのでした。

時が止まったような店、僕は大好物なのですが、皆さまはどうですか。いつだったか、入りにくい店は入りにくいと思ったなら入るなよ、という話を書いたように思いますが、まあ似たような話でもあるかもしれません。従来のグルメサービスで飲食店を探していた時代には、あまり到達していないかったような店舗が、マップで飲食店を探す時代になっては、手頃に到達できるようになってきてしまいました。あるいは、これはまた別の人間の心理だったり時代の流れでしょうが、Xブロガーの方々が渾身の一筆で紹介をしなかったような場所が、ショート動画では掘り起こされてぐるぐる回るというようなこともよく見かける気もします。

今回私が行った店は、たまたま散歩をしていた初めて訪れる街にて、どうも今日はとんかつが食べたい、どうしてもとんかつが食べたい気がする、と地図をこねくり回していたら見つけた場所でした。わたしは実はかなりとんかつが好きで、カレー屋にいくとかなりの確率でカツカレーを食べます。カレー屋のカツはとんかつ屋のかつとは違うだろ!と怒り出す人もいそうですが、そうじゃないのです。私はかつ自体が好きなのです。なぜかとても。これについてはまたいつか別の機会にもう少し考えてみたいと、あまり思っていません。

本当にこんな住宅街にあるのか?と木枯らし1号の吹き荒ぶ中歩いてたどり着いたそのお店は、例のショート動画が入ったらそれはもう万バズ間違いなし!といった特徴あふれる店です。どうかしばらく見つからないでくれ、などとつい思ってしまいます。見つかってお客さんが殺到したら売り上げがあがるんだから、お店にとってもいいことでしょう!というのが、撮影者あるいは撮影肯定側の意見と思いますが、必ずしもそうではない店もあるのでは、と思ったりもします。実際のところ、どうなのでしょうね。それこそ人それぞれ、かもしれません。

どう考えても時が止まってしまっている価格が書かれた札がぶら下がったままになっている店内を見渡し、念願のとんかつを注文。そして冒頭のシーンへ戻ります。カウンターの紳士が代わりに伝えてくれたビール、ありがとうございますと言っているうちに近づいてくるママ。キリン、アサヒ、サッポロ、エビス、どれがいいですかと。この感じで全部揃っているなんてと面食らいながら、気分の銘柄を伝えると出てきました、大瓶。大瓶だと思っていなかった。定食を頼んでしまったのに大瓶だ!これはバランス感覚が試される三角もとい四角食事となりました。

そして出てきたとんかつ。欲していたものが全て綺麗に皿に乗って出てきました。改めて値段を確認して思わず首を傾げたくなる厚切り。そしてこれは僕のセンサーが勝手に反応しただけですが、ライスが白い平たい皿で出てきました。そう、とんかつは和食ではなく、洋食なのです。だからご飯ではなくライス。でも味噌汁もでてくる。チェーン系のとんかつ屋さんに行くと赤出汁の味噌汁が定番、だったように思うのは子供の頃の記憶で、よくよく近頃のことを思い起こすと、そうでもなかったりもするなと今書いていて気づきましたが、それはさておき。あわせ味噌に、珍しく白菜の浮かんだ味噌汁が、冷えた体にじんわりと沁みる。

一緒にいった恋人はハンバーグと、ビールを一口だけ手伝ってくれました。私はライスととんかつとキャベツと味噌汁と大瓶のバランスゲームです。ちなみにキャベツには何もかけない派です。いろんな人がいておもしろいですよね、とんかつのキャベツ。皆さんはどう食べていますか?私はソース味のとんかつを口でもぐもぐしたあとその味が残ったまま、シンプルキャベツが口に入ってきてそして口内がまた次のとんかつを欲するようになる、その瞬間が好きです。某ビリヤニ屋と著名グルメライターが会話しているショート動画で、味覚には陰圧と陽圧があって、という話をしていた気がしますが、これもそういったことでしょうか、いえすみません、ちゃんと見ていなくて。

いつの間にかカウンターにいた男性はいなくなっており、私たちは食事を終え、最後にビールをきゅっと飲み干し、大満足で帰ろうとしていると、男性が4人で入ってきました。ママさん僕ねこの店40年前に来ててね、その頃とってもお世話になったんだ、と話しかけるひとり。なんて美しい話なんだ、と一瞬思ったのも束の間、いや自分だったら40年ぶりに訪れるなんてことはないだろう、いい店はあるうちに通え、と自戒を込めて思い直すなどしました。

良い酔いは、いいと思っているうちにやらないと、消えてしまいますよ。

さて今週のヨヨイノヨイは。

そんなとんかつです。
近々もう一度行きたい。

次は定食にせず、清酒も頼んでみよう。

それではまた来週!

この記事を書いた人

逸見愚栄(へんみ ぐえい)