夏のきれはし

お盆なので、実家に帰った。

普段なら、「駅まで迎えに行くね〜」とLINEをくれて、夕方からノンアルビールを飲みながら待機してくれている母。

でも今回は、引っ越しの手伝いに東京まで来てくれていた。帰りは二人で新幹線に乗った。名古屋駅に着くと、ゲートタワーの適当な店に入り、うどんを食べて、少し飲んだ。いつもと少し違う帰省だった。

無事に実家へ到着し、シャワーを浴びると、お腹が空いた。

冷蔵庫を開けると、いつものように酒がぎっしりチルド室に丁寧に敷き詰められている。実家の冷蔵庫では、生鮮食品よりもビールがチルド室へ優先入場される。ほとんどビールで埋め尽くされているが、普段私が飲まないロング缶のチューハイもある。

「この翠ジンのグレープフルーツ飲んでいいー?」

「なんでもどうぞ〜」

そんなことを言いながら、いつものように酒を飲む。

冷蔵庫には、父が留守番中に作ったらしいジャーマンポテトが入っていた。それをつまみ、明宝ハムも一緒に食べる。一味マヨで食べるのが好きだ。

そういえば昔、バイト終わりに家に帰ったとき、暗闇の駐車場で父が倒れていたことがある。

びっくりして悲鳴を上げ、母を呼んだ。

「父さんが倒れてる!」

母と二人で駆け寄ると、父は大きなイビキをかいており、玄関前でただ泥酔して寝ていただけだった。

実家に帰ると、テレビを観ながら、そんな昔話やどうでもいい話をしながら、母と晩酌することが多い。


翌朝、午前中に友人の子どもに会いに行った。

午後に家に戻り、リビングのソファで寝っ転がりながら、昔の雑誌を引っ張り出して読む。

特に何をするでもなく、だらだらしていたら、気づけば夕方になっていた。

東京にいると、休日でも何かしなきゃと思ってしまう。実家では、何もしないまま一日が終わる。実家の夏は、東京にいるときと時間の流れが違う。

夜は近所で友人と飲んだ。

友人と別れたあと、なんとなくもう一軒寄りたくなった。学生時代に三年半ほどアルバイトをしていた、あの酒場だ。

目的はひとつ。

人生で初めてボトルキープした、あの黒霧島の生存確認だ。

「いらっしゃいませ」

戸を開けると、カウンターの中にいたのは、以前見かけた社員さんだった。

来る前にGoogleマップを見たら、「接客が悪い」という最近のなかなか辛辣な口コミがいくつか並んでいた。なんとなく、嫌な予感はしていたのだ。

目が一度も合わないのに、眼光だけは鋭い店主らしき人物。

店内を見渡すと、壁の棚に並んでいるキープボトルは10本もないくらいだった。

あの日、「自分と店との契約書だ」なんて気取ってポスカでサインした私のボトルが、あの中に残っている確率なんて絶望的に低い。
そもそも、一度も目を合わせてくれないこの店主らしき人物に、「あの、私のお酒ありますか」と尋ねる勇気なんて、微塵も湧いてこなかった。

せめて、当時お世話になった店長が今もここにいるのかだけでも知りたい。

会計の際に、アルバイトの子に小声で「山岸さん(仮名)って今もこのお店にいらっしゃいますか?」と尋ねる。

「山岸さん…?ランチのパートの方ですか…?わからないので、店長に聞いてきましょうか?」と困らせてしまった。

「あ!!大丈夫です!すみません!」と焦って、止めた。

後から、当時のバイト仲間の友人に、山岸さん(仮名)は名古屋の店舗に異動になったと聞いた。

そういえば、黒霧島の生存確認をしに来たんだった。

棚に並んでいた、10本ほどのボトルを思い出す。

……絶対ないやん。

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