ワインバーであったり、日本酒バルであったり、あるいはアブサンバーでもいいのですが、私は「同じもの」がたくさんあって、それを店主がカウンセリング的に選んでくれて飲める、そんな店が大好きなのです。
先日メニューのないワインバーにて、どんなのを飲みたいですか?泡ですか白ですか、そうですかわかりました、では甘いのと甘くないのとでは?などと、お客さまと店主のソムリエさんが話しているいつもの光景が広がっていました。
「辛口で!」
まあ全然よくきく単語なのですけれども、なんとなくその日はその言葉が引っかかったわけです。甘いのか甘くないのか、と聞かれて、辛口でとお答えになられたそのお客様のことが。
余談ですが、昔とあるラーメン店にて、こんなことがありました。ニンニク入れますか?という店主の問いに対して、濃いめ硬めで、と答えたお客様がいらっしゃいました。類似の麺を出すお店では通じそうなこの返答ではありますが、そこの店主は違いました。「わたしはニンニクをいれるかどうかを聞いています」
賛否両論ありそうなエピソードですが、聞かれたことには正確に答えたほうがよいです。
さて、ワインバーの景色に戻りましょう。甘いほうがいいですか?に対して辛口とのお答え。たしかに甘いの反対にある概念の一つは辛いでしょう。
でもよく考えると辛口のワイン、あるいは辛口の日本酒、辛口のビール、辛口のチューハイ。どうもちょっと引っかかるような気持ちになってきてしまいました。本当にからいのは焼酎の金魚だけ!ありゃ唐辛子がプカプカしてますからね。
ここで酒の辛口について整理してみましょう。
調べてみますと、日本で「辛口」と呼ばれることのあるワイン、英語ではdry、フランス語ではsec、イタリア語ではseccoと言います。たしかにボトルに書いてあったりする。どれも元を辿れば「乾いた」という意味だそうで。
ワインとともに入ってきたdryという概念が、単純な翻訳としてはたどり着けなさそうな「辛口」という単語になったかというと、日本ではもともと日本酒について「甘口」の反対としての「辛口」という言葉が使われていたというわけです。つまり西洋のdryという言葉を日本に持ってきて訳したわけではなく、西洋でsweetとdryに分けていたものを、日本にすでにあった甘口と辛口という箱にいれたらよさそうやん、となった。
そもそもワインのdryとは何か。国際的な基準ではちゃんと数字が決まっているそうで、基本的にはブドウ糖と果糖が1リットルあたり4グラム以下ならdry。なるほどやっぱり甘くないってことじゃないですか、と思いきや、酸が一定以上あれば糖が9グラムあってもdryを名乗ってよいことになっているんだとか(このあたりはちゃんと調べてないので、間違ってたら教えてください)。
同じ量の糖が入っていても、酸が強ければ甘味は感じにくくなる、それって人間の官能の話ですよね。数字の話なんだけど、1つの要素だけを見るのではなく、人間が見てしまう景色のことを考えて、違う軸からのハシゴがかかっているような形です。ロマンある。違うか。
ほかにもアルコールや香りや温度など、われわれが口の中で感じている「甘い」「甘くない」は、糖が何グラム入っているかだけでは決まりません。ぬるいスイカのほうが甘い、とかね。
では日本酒の辛口はどうでしょう。こちらも「日本酒度がプラスなら辛口」とよく言われますが、日本酒度というのはそもそも酒の比重をもとにした数字であり、飲んだ人間がどれくらい辛く感じるかを直接測った数字ではありません。酒類総合研究所の説明でも、日本酒の甘辛には糖分と酸度のバランスが大きく関わっていて、同じくらい糖があっても酸が多ければ甘味を感じにくくなる、とされています。
ワインとそう遠くないですね。酒における辛口というものは、「辛口成分」が入っているわけではなく、まず甘味が少ないことを中心に、その周辺にある酸味だの香りだのアルコールだのによって人間がどう感じるかをまとめて、日本語では辛口、西欧の言葉を日本語で言うとするなら乾いている、と呼んでいる、
じゃあビールもそういうことかというと、これは違う。そもそも甘いワインや甘い日本酒は思い浮かぶけど、甘いビールって、ないとは言いませんが、あんまり思いつかないでしょう。
いま「辛口のビール」と言われると、ふんふんスーパードライのことね、となるこの企業努力のすごさがすごいですが、あ、というか商品名がスーパー「ドライ」ですね。乾いてますやん。そんなブランド名のアパレルもありますねそういえば。
アサヒビールによれば、1987年にスーパードライを開発していた当時、ビールには日本酒やワインのような「辛口」という概念そのものが一般的ではなかったそうです。そこで日本酒などで使われていた辛口や「キレ」という言葉をビールにも持ち込み、さらりとした飲み口、シャープなのどごし、後に残らないキレを「辛口」として打ち出したんだそうです。
缶チューハイの世界へ行けば、「辛口」「ドライ」というより、近ごろは「無糖」という言葉のほうがよく見るような気もしますが、宝酒造は焼酎ハイボールの辛口について「甘くない」ことを重要な特徴として説明しています。無糖というのは糖類がどう入っているかという表示の話で、辛口というのは人間がどう感じるかという味わいの話ですから、似ているようでこれが実は違うんだな、とわかったのは収穫ですね。
当たり前のようなことを言いますが、辛口というひとつの明確な味があるわけではないのです。それでもワインバーで「辛口で」と言えばソムリエさんにはだいたい通じるし、日本酒屋で「辛口がいい」と言っても酒を選んでもらえるし、コンビニで「辛口」と書かれた缶を見れば、われわれは飲む前からなんとなく味を想像できます。
便利な言葉、辛口。ただし「甘いのと甘くないの、どちらがいいですか」と聞かれたときには、甘くないほうで、と答えたほうがよいでしょう。
わたしはニンニクを入れるかどうかを聞いています!と言われてしまいますからね。ニンニク入ってるお酒ってありますか?
今週のヨヨイノヨイは。
辛口の日本酒を飲んだはずなんですが、写真がありません。
これは先日の松屋銀座で行われていた手しごと市に並んでいたベリーキュートな片口。
こんな酒器で優雅にお家で一献。そんな将来ありますか?何年先になることやら。
また来週!
