酒は液体ですから飲んだら消えます。
そしてアルコールだから必ず酔います。
もちろん酔いには大小がありますし、このメディアのテーマである良い悪いもあるでしょう。
酒とは常にそんな儚いものですから、そうとは思わず身体に流し込むのも良いですが、たまには人類の友インターネッツとともに膝突き合わせて調べてみてもいいんじゃないの、ということもあるわけです。
というわけで、先週に引き続きまして、実はよく知らないよねという酒について調べてみようの巻です。
とはいえサトーやらアガベスピリッツやらは、たまたま出会って、こりゃ気になりますわね!と調べたのがきっかけだったわけで、逆にこれをテーマに書きますよとなると、浮かばないのは酒を飲むときというのが酔っ払っているからという証明に他ならないでしょう。
なににしましょうかねと担当編集氏に相談してみたところ、グラッパかカルヴァドスなんてどうですか、と返ってきました。最初にイエーガーと来ていたことは忘れるようにします。
カルヴァドス。バカラのグラスで飲むのが一番似合う、そんなようなイメージのあるお酒です。
そうですね、夜な夜なあちらこちらの街に現れる白い屋台で飲むのもいいかもしれませんね。おっと、この話は別の機会にいたしましょう。この小出しでわかった方は、ツウですね。
そんなわけでもちろん飲んだこと自体はありますし、アップルブランデーなんて言葉を耳にしたことだってあります。
でも、確かに実はそんなによく知らないなと。いろんな酒が並んでいるときに、カルヴァドスをくださいと主体的かつ積極的に選んだことはないような気がしますし、もっといえばカルヴァドスの中からこれを選びましょう、なんてことをしたことはお恥ずかしながらまったくありません。
そんなわたくしが「リンゴのブランデー」という文字を改めて眺めていましたところ、いやそもそも概念をまったく理解してないのでは、たしかに調べてみる価値がありますなということで、恥を忍んで筆を進めてまいります。
そもそも、ブランデーとは。聞いてまず頭に浮かぶのは葡萄です。コニャックもアルマニャックも葡萄。ワインを蒸留してつくる酒、ということはなんとなく知っていましたが、調べてみるとブランデーという言葉自体が、オランダ語の「brandewijn」、ざっくり言えば「焼いたワイン」という言葉に由来するそうです。
そしてカルヴァドスは、リンゴのブランデーであると。ざっくり言えば、リンゴを搾って発酵させ、まずシードルをつくり、そのシードルを蒸留し、樽で熟成させてつくられる酒とのこと。同じ生産者がシードルとカルヴァドスの両方をつくっていることもあるんだそうで、同じつくり手のものを揃えることができれば、蒸留される前とされた後を並べて飲む、親子飲みのようなこともできてしまいます。やってみたいですね。
ワインとブランデーも同じような関係と捉えることができます。であれば麦の酒であるビールを蒸留したらウイスキーになるのか、と考えると、こちらは近いようで遠い。たしかにウイスキーも穀物を発酵させた液体をまずつくってから蒸留するのですが、その液体は「ウォッシュ」と呼ばれ、ビールによく似てはいるものの、われわれが酒場で一杯くださいと注文できる場所に並ぶことは、基本的にはありません。
シードルをつくって、それを蒸留してカルヴァドスをつくる、ということは、シードルの方が当然ながら先にある。葡萄のワイン、こちらの歴史は古く長く人類は少なくとも8000年くらい前にはつくっていたそうで。それに対して、西ヨーロッパでワインを蒸留して強い酒をつくる技術が広がっていくのはずっと後の中世。何千年もワインをワインとして飲んできた人間のところに、あとから酒を蒸留する技術がやってきた。
リンゴの方でも、ノルマンディーでは中世にはシードルが広く飲まれるようになっていて、1553年、ジル・ド・グーベルヴィルという人物の日記にシードルを蒸留した記録が残っています。現在確認されている、この地方におけるシードル蒸留の最古級の記録だそうです。
シードルが余ったからなのか。シードルより長く保存できるからなのか。小さくして運びやすくしたかったのか。それとも単純に強い酒が飲みたかったのか。残念ながら本人が「今日はこういう理由でシードルを蒸留することにしたよ!」と書き残してくれているわけではないので、実際のところはよくわからないそうで。
当時のヨーロッパで、いや今ももちろんそうですが、強いアルコールは酒場だけのものではなく、薬や錬金術の世界とも深くつながっていました。「生命の水」を意味するアクア・ヴィテやオー・ド・ヴィーなんて言葉があったり。
すでにワインを蒸留して強い酒をつくっていることがわかり、それに使う道具も身近にある、という状況がシードルを日常的に飲んでいる土地にもやってきた。そんならこれも蒸留してみっか、となったのでしょう。
かのグーベルヴィルさんがこんな軽いノリだったかはさておき、1553年の記録から半世紀ほど経った1606年には、この地方でシードルのオー・ド・ヴィーをつくる蒸留業者たちの組合までできていたそうです。
そして長い時間を経て、そうしたシードルの蒸留酒が、現在われわれがカルヴァドスと呼んでいる酒へとつながっているのでした。
どうやら使えるリンゴが200種類以上あるみたいなはなしもありましたが、今日はやめておきましょう。
知識がなくても酒は飲める。知らずに飲んだって、うまいものはうまい。でも、知ってから飲む一杯には、ときどきそれまで見えていなかった景色が浮かんできたり、こなかったり。
さて今週のヨヨイノヨイは。
カルヴァドスについてかくなら改めて読みたいなと思って、飲んできました。
バーで飲めばいいものを、わざわざティーとのペアリングで楽しんでまいりました。
青りんごのようなニュアンスのある和紅茶と、混ぜるのではなく、一緒に楽しんでくださいというこのスタイル。
親子飲みではないですが、類縁者飲み、とでも言いましょうか。なかなか乙でございました。
それではまた来週!
