九月のこの季節、三軒茶屋のカウンターで、氷がグラスに触れる音を聞きながら、南九州の畑を思うことがあります…
早い畑では、さつまいもの収穫が始まる時期です
夏のあいだ土の中で育ってきた芋が、掘り上げられる…
まだまだ日中は暑いですが、それでも蔵にとっては、ここからが秋です
芋焼酎と聞けば、甕や蒸留器、蔵人の手仕事を思い浮かべる人が多いかもしれません
でも、今年の一杯の始まりは、もっと手前にあって、春に苗を植え、雨の多さや強い日差しを気にしながら、農家さんが育ててきた畑がそれです

掘り出されたばかりの芋は、まだ当然焼酎なんかではありません
土の具合、その年の天気、畑に通った人の手間、そんなものを抱えたまま、芋は蔵へ運ばれていきます
同じ品種でも、畑が違えば育ち方は変わり、年によって香りや甘さの表情に差が出るのも、畑の一年と無関係ではないのでしょう
収穫は、畑にあった一年の時間が、ようやく蔵へ向かう日です
洗われ、蒸され、麹と出会って、今年の仕込みが始まる
いまグラスにある一杯と、南九州の畑でいま掘り上げられている芋のあいだには、まだ時間があります
その時間の先に、次の一杯が生まれてきます
九月の夜、芋焼酎のグラスを前にすると、「今ごろ、南九州では芋を掘っている頃だな」と思うことがあります
そう考えると、いつものソーダ割りの向こうに、遠い畑の景色がひとつ増えます
まだ土の中にある芋が、どんな一杯になるのか…
三茶で楽しみに待ちたい


【三軒酎屋の中の人note】
毎週土曜日更新
女性の1人飲みの参考書?
倉嶋紀和子(くらしま きわこ)
日本の雑誌編集長、エッセイスト、タレント
大衆酒場文化の第一人者として多方面で活躍
・肩書:『古典酒場』創刊編集長
・称号:酒サムライ(2022年叙任)
・愛称:酔女(吉田類さん命名の俳号)
・雑誌創刊:2007年に居酒屋特化誌『古典酒場』を創刊
・TV出演:『二軒目どうする?』『にっぽん酒処めぐり』など

