レッツバイチュー|水曜19時、秋葉原。白酒でスパイス爆弾を喰らい尽くす。

水曜日の19時前。
秋葉原の、あのちょっと雑多な駅前を抜けて「香福味坊」のドアを開けた瞬間、クミンと八角などスパイスの香りがガツンと鼻をくすぐった。
これこれ、この匂い。まだ週の半ばの水曜日にも関わらず「よっしゃ飲むぞ」とスイッチが入る。

今夜集まったのは、総勢21人の男女。

こういうお酒のイベントって「はじめまして……」とおそるおそる始まることが多いけれど、今夜はとば口からちょっと様子が違った。
なぜなら参加者の多くが、すでにあの「白酒(バイチュー)」の熱烈なファン、いわば確信犯たちだからだ。

「いやあ、今の日本には白酒好きの受け皿になるイベントがないのでワクワクしてきました!」

隣の席の男性は、まだ空っぽの小さなグラスを見つめて、すでに目がキラキラしている。
もちろん、なかには「昔、出張先で無理やり飲まされて痛い目を見てからちょっとトラウマで……」と苦笑いする女性もいる。
でも、周りの白酒ギークたちの楽しそうな熱気を見ているうちに、その不安もどこかワクワクした期待に溶けていくようだった。

「今夜はただ飲むだけじゃありません。お酒の向こうにある、知らない世界の沼をみんなで覗いてみましょう!」

なかむら編集長の挨拶が、今夜の最高な宴のスタートの合図だ。

白酒王子が教えてくれた「本当のガンペイ」

「白酒ってね、中国の風土と、人と人の歴史そのものなんですよ」

満面の笑みで私たちの前に現れたのは、味坊集団の「白酒王子」こと林さん。
のっけから林さん自身がワクワクしているのが伝わってくる。

林さんの話は、いわゆる「スペックや製法のうんちく」で終わらないから、聞いていてめちゃくちゃ面白い。
なかでも、私たちがよく使う「乾杯(ガンペイ)」の本当の意味についての話は、妙に目からウロコだった。

「文字通り『杯を乾かす(飲み干す)』ですけど、中国でお酒は人と人とのつながり。だから白酒での乾杯(ガンペイ)は人と人とのつながりそのものなんですよ!」

なるほどなぁ。
ただの強いお酒、あるいは場を盛り上げるための道具だと思っていた「ガンペイ」が、急に人と人をつなぐ秘密の合言葉に見えてくる。

「さあ、理屈はここまで。実際に飲んでみましょう。まずは中国式に乾杯(ガンペイ)!」
林さんの弾けるような掛け声で、テーブルの上が一気に賑やかになった。

5つのグラス、香り高き大冒険

運ばれてきたのは、水みたいに澄み切った透明な液体。
なのに、ちょっと鼻を近づけただけで、驚くほど華やかな香りが鼻腔にふわりと広がっていく。

今夜の飲み比べは、計算された美しいグラデーションで進む。

まずは、すっきり系「清香(チンシャン)型」の汾酒から。
これが、これまでの白酒のイメージをひっくり返すくらい綺麗で雑味がない。
ほのかな甘みがあって、キレが抜群。
「あ、これめちゃくちゃ飲みやすい!」と、あちこちでグラスが傾く。

続いて、一気にフルーティーさが増す「濃香(ノンシャン)型」の沱牌六糧へ。
「え、パイナップル!? さっきのと全然違う!これ大好き!」と驚きの声。
口当たりがトロッと甘くて、お酒の強さを忘れてしまいそうになるくらいポップな味わいだ。

そして、白酒の真骨頂とも言える「醤香(ジャンシャン)型」の君妃。
「あぁ、やっぱり醤香型は落ち着くなぁ……」と、玄人の参加者がじっくり香りを愛おしむように呟く。
時間をかけて発酵させているせいか、どこかお醤油のような深みと、チョコレートのような甘い余韻が喉の奥に心地よく残る。

さらにその間を繋ぐように注がれた、もう一つの個性的な一杯(予定にない白酒や料理が王子の差配で次々出てくる)を経て、旅のフィニッシュは琥珀色の「薬酒」、五加皮酒だ。

ハーブや生薬がじっくり漬け込まれていて、デザート酒のような甘味、エキゾチックでクセになる味。
「これは身体に良さそう(笑)」「一気に本場の夜って感じがする!」と、テーブルの会話のギアがもう一段上がる。

炭酸の泡と、胃袋が歓喜するペアリング

各白酒は、ストレートで楽しむだけでは終わらない。
「次は、中国の地元の人が見たら『何やってるんだ!』って怒るかもしれない飲み方をしますね。」

林さんがいたずらっぽく笑いながら出してきたのは、炭酸水とコーラ。
これには白酒好きたちも「えっ、白酒をコーラで割るの!?」と興味津々。

まずは濃香型の白酒をソーダで割ってみる。
シュワシュワと泡が弾けた瞬間、南国のフルーツの香りが何倍にも膨らんで、テーブルの上が一気に今っぽいバル調の雰囲気に変身した。
「美味しい! これ普通にバーの定番メニューにしてほしいくらい」。

さらに面白かったのが、コーラ割り。白酒独特の香りがコーラのスパイシーさと完璧に混ざり合うことで、いま流行りの「クラフトコーラ」さながらの奥行きのあるカクテルになった。
「お酒なんて、自分たちが美味しいと思う方法で楽しめば、それが新しい文化ですから」という林さんの言葉に、みんなの肩の力がどんどん抜けていく。
「トラウマがある」と言っていた彼女も、「ツンとした感じが全然ない!これなら誰でも飲めちゃう!危ない」と、その美味しさ、飲みやすさに目を丸くしていた。

そして待ってましたとばかりに、香福味坊の「ガチ中華」たちが大皿でどんどん運ばれてくる。
クミンがガツンと効いた羊肉の串焼きに、ニンニクが超絶効いたスペアリブ、特大ニラ饅頭などなど。
魅惑的な香りの料理が次から次へと出てくる。

「さあ、この羊肉をしっかり噛み締めてから、さっきのすっきりした清香型の白酒を飲んでみてください。」

林さんに言われるがまま、ジューシーな羊肉の旨味と脂が口いっぱいに広がったところで、白酒をくいっと一口。

その瞬間、あちこちのテーブルで「うわ、すごい!」と声が上がった。

ビールで冷たく流し込むのとは全然違う。
羊の濃厚な脂が、白酒の持つ熱さと華やかな香りで、一瞬できれいに「調和」して、口の中がサラリとリセットされるのだ。
そして、お肉の旨味がもう一段階引き立つ。中華料理には、やっぱり中華のお酒。
その最高の相性を、胃袋がダイレクトに理解した瞬間だった。

大きな円卓、21人のガヤガヤ、そして。

気づけば、店内のボリュームは最初の倍以上になっていた。20人の間を隔てていた壁なんてとっくに消えて、お互いにグラスを注ぎ合い、大皿を回し、まるでもう何年も前からの飲み友達みたいに笑い合っている。

「白酒が怖い」と言っていた彼女も、今や「白酒、めちゃくちゃ美味しい!」と、隣の男性と白酒が飲める都内の名店情報に花を咲かせている。
20代の若い女性参加者はノンシャン型を気に入って、早速Amazonでポチり。
元々の白酒好きな人も初めての人もみんな白酒レベルが急成長していく。

最後は、日本未発売の激レア白酒をかけた、じゃんけん大会。

「最初はグー、じゃんけんぽん!」

勝って子どもみたいに飛び跳ねる人、負けて頭を抱える人。そのすべてが可笑しくて、愛おしい。
楽しい夜は、本当にあっという間。最後に、みんなのグラスに少しずつ白酒が注がれた。

あぁ楽しかった、美味しかった。
でも、今夜の夜はそれでは終わらなかった。
白酒の本当の魅力を知っている人、そして今夜その魅力に改めて開眼した人、総勢21人が大きな円卓を囲むようにして、自然と熱い言葉を交わし始める。

「こんなに美味しいのに、まだ『罰ゲームのお酒』だと思われているのはもったいなすぎる!」
「もっと日本のたくさんの人に、この自由で楽しい白酒文化を広めたいよね。」

誰からともなく湧き上がったその想いは、一瞬でフロア全体の総意になった。

「よし、ここにいるみんなで、白酒の良さを日本中に広めていこう!」

円卓を囲むみんなの目が、熱っぽく輝く。
それは、お酒の席の単なるノリなんかじゃない。
一杯のお酒を通じて世界が広がる楽しさを知ってしまった人たちの、純粋な「誓い」だった。

林さんは、その様子を本当に嬉しそうに、目を細めて眺めていた。

「今夜はありがとうございました。皆さんが白酒の仲間になってくれて、本当に嬉しいです。最後はみんなで目を合わせて、一気にいきましょう!」

林さんの言葉に、グラスが、大きな円卓の中央へと集まる。

私たちが今夜乾杯したのは、ただの強いお酒じゃない。
ここで出会った目の前の仲間たちへの親愛。
ちょっとだけ好きになった中国の文化。
そして、この素晴らしいカルチャーをこれから一緒に広めていくんだという、ささやかな、でも確かな決意だ。

誰もが最高の笑顔で、しっかりと目を合わせた。
喉の奥がカッと熱い。でも、胸のあたりはもっと温かい。
よし、今度は誰を誘って白酒を飲みに行こうか。そして、どうやってこの楽しさを伝えよう。

グラスを高く掲げて、せーの、
「レッツバイチュー!」

この記事を書いた人

bacchante編集部