どんな感情もみんな、あの喧騒と一緒に包み込んでほしいとき。
私は神保町の、あの赤い看板を目指す。
金曜の夜、カウンターにて。ビールと烏龍茶が運ばれ、当然のように、私の前には烏龍茶が、彼の前にはビールが置かれる。二人でふふっと笑い、グラスを取り替え、カチンと軽く乾杯をする。水餃子を取り分けてくれる、その綺麗な横顔を盗み見るように眺めていたら、湯気越しに視線が合う。肩が触れ合う距離も、店内の喧騒がカモフラージュしてくれる。

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そんなすこし艶めかしい夜もあるかと思えば、会社の同期であり、よき友である彼女と皿を並べる夜もあった。箸も話も止まらない。仕事の真面目な話から、どうでもいいくだらないことまで。運ばれてきた、てかてかの酢豚。それは、まだ青かった私たちの明るい未来を予言するように、神々しいまでの照りを放っている。私の神保町の思い出を辿れば、いつだって隣には彼女の笑い声があるのだ。
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仕事でむしゃくしゃした夜は、一人、カウンターに逃げ込む。隣の席の、恋愛の一番おいしいところをしゃぶり合っている男女を横目に、なりふり構わず、ただ五目炒飯と対峙する。甘い囁きをかき消すような、厨房から響く激しい鍋の音。分かりやすく、とびきりうまい一皿を一心不乱にがっつく。咀嚼するたびに、ささくれた心の角が取れていくのがわかる。明日への活力が、炒飯の熱と一緒に、腹の底からふつふつと湧き上がってくる。
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取引先の偉い人と、ハイタッチを交わす夜もある。 「この店チョイスしてくれたのは誰?」 餃子を口にした彼の一言に恐る恐る手を挙げると、そのままパチン、と手が重なった。瓶ビールをじゃぶじゃぶと注ぎ合い、酔いとオーダーが飛び交うどさくさに紛れて、おいしくて、うれしくて、またハイタッチをする。翌朝、ブレスケアを大量に飲み込みながら、調子に乗りすぎたなと猛省をする。けれど、今でもその人との食事の約束は、「三幸園、行きませんか?」で始まるのだ。
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かと思えば、職場の上司や同僚と、繁忙期のお疲れさま会に興じる夜も。重労働に追われていた日が嘘みたいに、皆で清々しい顔をしてビールを煽り、にらそばを仲良くすする。どんぶり一面の緑の水面、その中央にぽつんと浮かぶ卵黄。 箸でそっと割ると、鮮やかな黄色がとろりと溶け出し、ニラの香りをまろやかに包み込んでいく。「明日、みんなで口臭くなるぞ」 そう笑い合った翌朝。上司がわざわざ席までやってきて、「帰ったら奥さんに第一声で『くっっさ!』って言われちゃったよ」と、どこか誇らしげに報告してくるのだ。
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地元の友人から「名古屋の『味仙』みたいに中華をつつけて、餃子がうまい店」というオーダーが入り、私は迷いなくここを勧めた。彼は、メンバー、場所、時間、どう過ごしたいかまで、驚くほど詳細に伝えてくれた。私が以前、「おすすめを聞くなら、シチュエーションとかも詳細に言えっつの!」と豪語していたのを覚えていてくれたらしい(当の本人はすっかり忘れていたのだけれど)。そんな私の身も蓋もない、けれど率直な言葉を大切に受け取って、丁寧に希望を綴ってくれた彼。自分の好きな場所が、誰かの思い出になっていく喜び。「バカうまだった」と写真と共に届いた連絡に、私はなんだか自分まで誇らしい気持ちになる。
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どんな感情も、どんな関係性も。ひとりの夜でさえ、あの喧騒と一緒に包み込んでくれる場所。私は今夜も、神保町のあの赤い看板を目指す。そしてまた、いつもの一皿と、新しい思い出をおかわりするのだ。



ポイント
・大人数でわいわいやるなら、予約が吉
・店先に並んでいても回転は早めなので、お腹を空かせて待つのも◎
・どれを選んでも外れがない、ボリューム満点の料理が豊富
利用シーン
・気心の知れた相手と、気取らずに賑やかな夜を分かち合いたい日
・はじめましての距離を、そっと縮めたい日
・ひとりで目の前の一皿に没頭したい日
店舗基本情報
・店名:三幸園(さんこうえん) 白山通り店
・エリア:東京都千代田区神田神保町
・予約:〇
・HP