それっておいしいですか?って聞きたいなら、自分が何を食って飲んだか1週間分は覚えておいた方がいい


おはようございます!
1週間経つのが早すぎて、目がまわりそうです。実際に目が回る場合には、重大な病の始まりである可能性があるので、病院へ行くことをおすすめします。

なんだかなあ、と思ったときに駆け込みたい酒場。みなさまにはあるでしょうか。
僕には何軒かあります。
一人で飲みたくないが、人に話は聞いてほしい。そんなときに機能するのが、そんな酒場です。

いや、もっと極論を言えば、話なんて一つもしなくていいんです。
目の前に、信頼を置いた人間が存在している、という状況で酒を飲みたい。
そういう場所は、一つあればそれだけで充実していると思いますし、複数あればそれに越したことはないような気もします。
ですが、そんな店おれには100軒あるよ!という人。これは詐欺師でしょうから、気をつけましょう。

さて、今週もそんな行きつけの酒場にて。
わたくしが今週は何に「なんだかなあ」と思っていたかどうかということは、さておき。それはまたいつか別の機会に書けることと書ける場所があれば書きましょう。

カランカランとドアに引っかかった来客を知らせるベルの音。
人を見る目に長けた熟練のマスターは、そのわずか一瞬にて、「あー、申し訳ない!今日は予約で満席でーす!」なんて言う人です。

察しのいい読者の皆さまにはお分かりの通り、もちろんそんなのは嘘で、その後の数時間、僕と、カウンターに座るこの人よく会うなって名前の知らない、いわゆる常連さんと、奥のソファ席ではなんだか小難しそうな話をしているおじさまが二人と。どれだけ飲んでも、何時間経ったって、お客さんは増えないのです。

それが一つの世界を守っている。
ただ、どんな世界にも迷い込んでくる珍客はございます。

今日の舞台のこちらのお店、いいところは語れないほどたくさんあるのですが、いわゆる一つのカテゴリに属するお酒がたくさんあるタイプの店であります。
そういった店の好きなところは何かというと、その無数にある眼前に広がる可能性の中から、ジャストナウ今の自分に合致する何某を、僕のつくった言葉で言うところの、カウンセリング的接客によって見つけてもらえるところ。

「あー、マスター!白ワインのおいしいのください!」

マスターはもうやれやれ顔です。先程ドアがカランカランと音をたてたあの瞬間。
どうしてこいつがこういう人間だと見抜けなかったんだろう、おれの極めるべき道はまだまだ奥が深いぜ、と。
それでもマスターは、プロの仕事人ですから、こう聞き返すのです。

白ワインというと、いろいろありますが、すっきりか、こくありか、どのようなものがお好みですか。

そこからいくつかの問答が繰り返されます。
対話によって相手が今その瞬間に求めているものを出してあげようという、ある意味ではやさしさかもしれませんし、ある意味では当たり前かもしれないことです。
何往復かのラリーののち、それではこちらをお出ししましょう、とマスターが決めたその瞬間。

「へー、それっておいしいっすか?」

思わず隣に座っている私は、ありえないところに液体が入って目から血が噴き出る、ような感覚になります。
何をいってるんだ貴様は?!ここまでの93秒くらいマスターとあなたが交わした言葉たちは一体なんだったっていうの!?

しかし一客であるワタクシめと違いまして、大人の男であるマスターは言葉を紡ぎ続けます。
ああ、そうですね、お好みにあうと良いですが、お注ぎしますね。

たいへん最悪で最高なことに、その男がこの問答をハイパーウルトラドヤ顔でしているなか、お連れの女性はマスターと人間らしいやり取りをしたうえで、ジャストミートな一杯に出会えていたようでした。めでたい。

時が経ち、件のアベックの帰ったあと、マスターとの本日の反省会であります。
「おいしい」という単語の解像度が低い人は、かわいそう、不憫でならない、救いようがない!

好きとおいしいは違い、クオリティの高低とおいしいも違い、旨みとおいしいも違うわけです。
それぞれ別個のことはいつかどこかで書くとして、とにかく気軽に「それおいしい?」とか聞いてくる人は一体どういう心境なのでしょうか。

なぜマスターが、これとこれならどっちですか、今はどんな気持ちですか、今日は何軒目ですか、普段は何を好みますか、などなど、内容は様々ありますけれども、あなたとのラリーをしているのか。
答えはシンプルにとても簡単。あなたの口はあなたのものであって、マスターの口とは感覚器として接続されないからに他なりません。

だからこそ、限りなくあなたが求めているものに近いものを出したいからこそ質問しているのであって、これがおいしいとあなたが感じるかどうかはもう少し精査してみないとわからないので、今この店に来るまでの1週間なにを食べてなにを飲んできてそれぞれについてどのようなご感想をお持ちだったか全ておっしゃっていただけますか?それをお聞きしたらこの今お出ししているそれがあなたにとっておいしいかどうかを判定することができる、かも、しれないですね。

という言葉を飲み込み、にこにこするのです。

飲食店とは、たいへんな職業ですね。
さて、今週のわたくしのヨヨイノヨイは。

奈良県は橿原市にて開催された食と酒とサウナの祭典、つどう、巡るにて。
山梨県でハンターをされている山在りさんのつくるジビエおでんに、福島県でどぶろくをつくられているぷくぷく醸造さんの一杯をあわせて。

脳天直撃ハッピーでありました。また来週!

この記事を書いた人

逸見愚栄(へんみ ぐえい)